「よく来たな、おめーら」と言って欲しかったのに記〓ゼブラーマン、エキストラ潜入記その5

 感動のラストシーンを迎えたスタッフと、エキストラたちの間には、ひとつの仕事をやり終えた充実感に浸っていた。今日のビールはうまそうだ。そんな気分の中、雑誌用の写真撮影が始まる。カメラマンは「cut」の人らしい(次号のcutはゼブラーマン特集だ)。階段口に監督、アニィ、渡部、鈴木京香が並び、そのバックに私たちがゼブラーマンコールをしながら撮影。是非ともロッキン・オン社さんには、見開きのトップでこの写真を使っていただきたいものだ。なごやかに時間が過ぎる中、監督から簡単な挨拶があった後「それでは哀川さんに話していただきましょう」ということになった。

今日は私の主演100本目という映画撮影に参加いただき、ありがとうございます。
今年初めて夏を実感するような今日、
皆さんと一緒に撮影できたこと、
とてもうれしく思っています。
今日は、本当にありがとうございました。

静かに聞き入っていたエキストラが、その言葉を聞き終えたとき、誰かが叫んだ。

ゼブラーマン!」

ゼブラーマン! ゼブラーマン

シュプレヒコールが広がっていく。

ゼブラーマン! ゼブラーマン! ゼブラーマン! ゼブラーマン! ゼブラーマン! ゼブラーマン! ゼブラーマン! ゼブラーマン! ゼブラーマン! ゼブラーマン! ゼブラーマン! ゼブラーマン! ゼブラーマン! ゼブラーマン! ゼブラーマン!」

 クタクタに疲れているエキストラたちのどこにそんな力が残っているのか、そう思わせるほど力強く、大きな声だった。そのシュプレヒコールに、世界一の笑顔を見せるアニィ。照れくさそうに場を去ろうとする渡部篤郎、エキストラを煽るようにうちわを振る鈴木京香、そしてあれほど怖かった監督の目が最高に優しくなった。静かに、なにかの物語のエンディングのように三々五々、大倉山記念館に入っていくキャスト。
「いい仕事をした」
そんな充実感で満たされながら、俺は立ち尽くしていた。映画は楽しい。でも映画を作るって、その何倍も楽し苦しい、面白い世界なんだろうなぁと思った。
 助監督が「今日はみなさん御疲れ様でした。皆さんには粗品をご用意しております。お持ち帰りください。今日は本当に御疲れ様でした」と叫ぶ。最初に集まった空き地まで戻ると、机の上に粗品のタオルが山と積まれていた。それを順番にひとつずつもらう。

そのタオルには、ゼブラ柄に「SHO AIKAWA」と書いてあった。

渋すぎるぜ、アニィ!(完)