「よく来たな、おめーら」と言って欲しかったのに記〓ゼブラーマン、エキストラ潜入記その4

暑い。本当に暑い。これだけの暑さで、気分が悪くなる人が出てこないのが不思議なほどだ。ついでに言えば、アニィなりきりのエキストラは、こんなに暑いのに汗も出していなければ、髪の毛も乱れていなかった。筋金入りなのだろう。同志としても、尊敬に値するヤツだと思う。
 さて、撮影だ。内容はラストシーンで、山場と言える重要なところ。警察署前に集まった群集の中を通り、警官とゼブラーマンが進むという内容。幸いにも俺はその通路の最前列に位置することに成功。横から小デブの女が押し入ろうとするが、肘打ちで阻止する。視線が痛かったが、その倍で肘打ち。警官役の皆さんがガードする中、マスクを被り、毛布を巻いたアニィが通る。
「それでは皆さんの前をゼブラーマンが通ります。ですから、みなさん熱狂的に歓迎してください。歓迎の仕方も個性を出してくださいね。みんな一緒の歓迎の仕方じゃ面白くないんで」
監督の言葉をしかと受け止めた俺は、演技プランを練る。そしてカチンコが鳴った。
ゼブラーマン、ありがとう」[]
「よくやったぞ」
「すげぇ、すげぇ」
「お前こそ、俺たちの真のヒーローだ!」
俺の言語中枢を振る回転し、次々と繰り出されるアドリブの台詞。手を振り上げ、警官を押しのけるように、オーバーに道にはみ出しそうに演技をつけ、絶叫した。そこを……。

アニィが歩いていく。
スローモーションのように。
うつむき加減ながら、目はまっすぐ前を射抜いていた。

「ゼ〓ブ〓ラ〓ァ〓、マ〓〓〓ン」

俺の手の届くような位置を、する抜けるアニィ、いや、ゼブラーマン

「カァ〓ット!」

 夢のような、アニィと俺の共演。そのテイクは、カメラアングルをいろいろと変え10パターンほど撮影される。そのテイクには、共演者と思われる市川由衣(だと思われる)とか子役、顔は見たことあるんだけど誰だったかってな女優さん。さらに警官の中には「知ってる、知ってる、この顔。誰だっけか、そうそう「黒の天使」で壮絶な死に様を見せたあのやくざ役の人やん!」ってな男優さんが。あと、どうでもいいけど映画評論家のおっさんもいた。暑かったけれど、この群集を掻き分けてゼブラーマンが進むシーンは撮影完了した。
「それでは次にゼブラーマンがこの警察署の前で皆さんに振り返ります。その時毛布が落ちて、皆さんの前にゼブラーマンの姿があらわになります。ですので、皆さん「おおぉ〓!」とどよめいてください。その後でゼブラーマンコールを始めてください! と言うわけですが、その前に哀川さんがゼブラーマンスーツに着替えますので、ちょっと待機です。これまでのゼブラーマンは、本当のゼブラーマンじゃないんです。ようやく皆さんも本物が見れますよ。この暑さですからね、ずっと着てると死んじゃいますから」
丁寧に説明してくれる監督。ついでに、その待ち時間に、
ゼブラーマンの得意技はゼブラ-ボンバーにゼブラースクリューパンチ、ゼブラードロップキックなんですね。すごいでしょ」
と、おいしいネタを笑いながら話し、和ませてくれた。すると、そこにフルボディスーツを着たアニィが登場!
「オオォ」
 エキストラからマジの歓声が上がる。ちょっとマジでカッコいい。少しムキムキッとしたデザインで、アメコミヒーローな感じだろうか。そのゼブラーマンが手に手錠をかけられたまま、こちらに振り向く。そしてその瞬間に毛布がバサッと飛ぶ、姿現れる! その動作を何回もアニィはリハーサルし、本番に備える。その一挙手を静かに見守るエキストラたち。もちろん俺も、神聖なアニィの時間を壊すことの無いよう、見つめていた。カッコいいぜ、アニィ。
 さあ、カメラが回る。いつの間にかエキストラの最前列に、鈴木京香と松葉杖をついた子役が。そして子役と京香が「ゼブラ〓マン!」と絶叫する、その声を聞きゼブラーマンが振り返る。バサリと落ちる毛布、「おおぉ」……、「ゼブラーマンゼブラーマンゼブラーマンゼブラーマンゼブラーマンゼブラーマン……」声がかれるまでにシュプレヒコールを続けるエキストラ! 俺は懸命にタオルを握った拳をつき上げ、叫ぶ。「ゼブラーマンゼブラーマンゼブラーマンゼブラーマンゼブラーマン!」そしてアニィが手錠を引きちぎり。
「●●●●●●!」
とつぶやく。うひょー。そして警察署の中に駆けて消えていくゼブラーマン
 毛布の落ちるタイミングや、大倉山記念館の周りで遊ぶ子供たちの声のおかげでいくつか取り直しも起きたが、夕闇がせまる前にこの重要なシーンを撮り終えたのだった。撮影終了時間は6時30分。そして、最後に大団円が待ち構える。括目して明日を待て!(to be continued)